研究紹介
光を用いた物質変換
1. 光触媒の性能を決める「ネック」の正体
光触媒は、太陽光を使って水から水素を作ったり、有害な物質を分解したりできる材料で、エネルギーや環境の問題を解決する技術として大きく期待されています。これまで多くの研究者がより高性能な光触媒を目指して材料の組成や構造を工夫してきましたが、その工夫が光の吸収に効いたのか、電子の流れを良くしたのか、それとも表面での反応を助けたのか、どこに効いているのかを見極めるのは簡単ではありません。そのため、改良を積み重ねても次に何をすればよいのかが見えにくいという課題が残されてきました。当研究室では、これまで取り組んできた電気化学的な計測手法を駆使して、材料の改良が反応のどの段階にどう効いているのかを切り分けて評価しています。こうして得られた知見をもとに、高性能な光触媒材料の開発と、それを通じたエネルギー問題の解決への貢献を目指しております。
Visualized process of photocatalysis
光触媒反応に含まれるプロセスを可視化した図
2. 光を利用した温室効果ガスの変換
豊富な資源であるメタンや、地球温暖化の主な原因となっている二酸化炭素を、工業的に有用な物質へと変換することは、エネルギーと環境の両面から非常に重要な課題です。当研究室では、これまでに光のエネルギーを用いて、これらのガスを水素や一酸化炭素へと変換できることを示してきました。さらなる挑戦として、より弱い光や、より低い温度のもとで反応を起こそうとしたときに初めて見えてくる反応の本当のネックを突き止め、より温和な条件のもとでの反応の実現を目指しております。
Greenhouse gases conversion driven by light irradiation
光照射により駆動される温室効果ガス変換反応
3. 未知の光触媒材料と反応の開拓
これまでの光触媒研究では、酸化チタンなどごく一部の材料を磨き上げることに多くの努力が注がれてきました。しかし、光をよく吸収するなど有望な性質を持った材料はほかにも数多くあり、それらの組み合わせまで含めると、調べるべき候補は膨大な数にのぼります。当研究室では、たくさんの材料を一度に効率よく試せるハイスループット実験を駆使して、この広大な材料の世界からまだ知られていない高性能な光触媒を見つけ出すことに取り組んでおります。さらに、当研究室の挑戦は材料だけにとどまらず、反応そのものの創出も目指しています。光触媒が真に得意とする反応と、社会が今まさに必要としている反応との重なりを見出し、光触媒の力を最大限に引き出せる新しい化学反応そのものを切り拓くことに取り組んでおります。
The distribution of promising photocatalysts (a) and reported photocatalysts (b)
光触媒の可能性を秘めた材料の分布(a)と、論文に報告されている材料の分布(b)
水素貯蔵・放出材料(水素キャリア)

脱炭素化の推進に向けた水素エネルギーの普及には、水素を安全に貯蔵・運搬でき、かつ低エネルギーで放出できる水素キャリアの開発が求められています。一般的に水素キャリアとして用いられる高圧水素ガスボンベは、水素貯蔵密度が低い上に、爆発や火災のリスクが伴います。液体水素キャリアとして知られるアンモニア、ギ酸、有機ハイドライドなどは、毒性や腐食性に加え、水素放出に高温での加熱が必要になることが課題となっていました。また、固体水素キャリアである水素吸蔵合金は、質量水素密度が低く、軽量での貯蔵・運搬には大きな課題がありました。当研究室では、水素を大量に含有したナノシート状の二次元物質の研究を行っています。

水素含有二次元物質として、水素とホウ素が1対1で結合した「ホウ化水素シート(HBシート)」、そして、水素とケイ素が1対1で結合した「層状水素化シリカン(L-HSi)」を扱っています。これらの物質の質量水素密度は極めて高く(HBシートの場合は8.5%)、軽量で爆発の心配がありません。また、簡便な溶液法で合成できるので、大量生産も可能です。当研究室では、これらの水素含有二次元物質に対して様々な外部刺激(熱、光、電気など)を加えることで省エネルギーでの水素放出を確立し、さらに、放出後の水素再貯蔵にも取り組んでいます。軽量・安全・省エネルギーの水素キャリアの実現を目指しています。

HB and L-HSi sheets
水素含有二次元物質(ホウ化水素シート、層状水素化シリカン)の水素生成と貯蔵
電気化学的物質変換に向けた電極触媒開発
電気化学は地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることのできる方策の実現に有望な方法です。 私達は、再生可能エネルギーなどで発電した電力を用いて有用な化学原料へ変換する“電気化学的CO2還元”の電極材料や触媒の開発を行っています。 電極触媒としては、地球科学における「海底の熱水噴出孔において、金属硫化鉱物上で化学変換が起こることで最初の生命の誕生につながった」という仮説から着想を得て、主に金属硫化物に着目しています。 最近では窒素(N2)や硝酸(HNO3)から肥料となるアンモニア(NH3)を合成する反応にも取り組んでいます。
1. 機械学習を用いた触媒設計指針の獲得
活性の高い触媒を設計するにあたっては、どのような物性が活性に寄与しているかを特定する必要があります。 これを達成する上で、機械学習に代表される情報科学は有力な手法です。 私たちは自分たちで触媒材料を合成・活性評価を行い、得られた活性と触媒の物理化学パラメータに対して重回帰分析に代表される機械学習を用いることで活性(あるいは選択性)とそれらのパラメータの間にある相関を調べます。 このようにして、活性に大きく寄与するパラメータを特定し、触媒設計へとフィードバックすることで、より高性能な触媒の開発につなげます。
Electrolysis
2. 水熱電気化学による触媒合成/物質変換
従来の水中における電気化学反応の研究、特に電気化学的CO2還元反応の研究は、その殆どが常温・常圧下に限定されてきました。当研究室では、高温・高圧で反応を行う「水熱電気化学」に着目し、高効率な触媒の合成、物質変換効率の上昇および新規物質への変換を目指しています。この装置は当研究室で開発したものであり、従来の電気化学リアクタでは不可能な高温・高圧下での実験を行うことが可能です。このような特殊な環境で電析合成を行った触媒は通常の条件で合成した触媒と異なる性能を示します。また、水熱下で直接電気化学反応を行った際には、温度に応じて活性や選択性が異なるということを見出しています。また、触媒合成/化学変換だけでなく、「水熱下での電子移動・プロトン移動」という新たな学理の創製にも挑戦していきます。
Hydrothermal Electrolysis Hydrothermal Electrolysis